有働薫
鉛筆の硬さが気になりはじめると
何本替えてみても
硬すぎる
鉛筆立てから鉛筆をつぎつぎに引抜いて左端の硬度のマークを読むのだがいつまでたってもこれでよさそうだと思える鉛筆には出会えない
まあましかなと思える鉛筆で書き始めるとなんとタッチの硬いこと御飯に混じった小石を噛んでしまったときのような生臭い、くさい、辛い、違和感に打ちのめされるまるで不運な負けがこんでしまったギャンブラーの悔しさ情けなさ自己嫌悪死の恐怖計画的に生きようというけさのちかいの呪縛をのろいすべてを投げ出して居間のちゃぶだいの下に潜って泣きわめきたい
ぶたれた猫みたいにいじけてじぶんの自尊心の傷をなめてやりながら
そのたてなおしにとりかかろうかどうしようか迷っているプライドの高いおねこさまねこちゃんにゃーちゃんにゃーこもう御飯食べてやらないぞだれがなんといってもスーパーでいちばん高いネコカン買ってきてもぜったいだめ!たべてやらない!でもどうしてもたべてほしい?じゃ鉛筆もってこいHじゃだめだBでもだめ10Bあるかもってこいトンボ鉛筆社長の小川さんお数奇屋風のご自宅の玄関あけてよ笹や竜のひげなんかを植込んだ石庭のヒイラギお詫びにお抹茶一服立ててよおいしかったらゆるしてあげるこんな硬すぎるえんぴつ作ってることほんとは許せないけど
恐ろしい断念の後には甘美な自由があること知ってるから
えんぴつ硬すぎるけど…ゆ…る…し…て…あげる!
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