うろこ新聞 2002年9月28日号(西新宿「ユニテ」の地図)
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うろこ新聞 2002年9月28日号(西新宿「ユニテ」の地図)



 明日夜8:15から「ユニテ」で飲み会(パーティ?)を、Booby Trap + rain tree + ?でやる。8:00ごろから開いておいてもらうことにしました。
 上が簡略な地図で、お気軽に電話してください。
 いずれ、ユニテの「酔いどれBBS」でも作って、常連さんとやりとりをしたいと思っている(下の倉田さんも来るそうです^^)。


DATA
新宿区西新宿7-12-23 松沢ビル3F
「ユニテ」
電話:3365-1642


新編 倉田良成の解酲子飲食 6

琉球食物誌
 しばらく前に、那覇在住の詩人、石川為丸さんを訪ねて沖縄に行ったことがあるが、行く前と後ではかの地の印象がまるで変わった。最近でこそ、いわゆる癒しとからめて語られることの多い沖縄ではあるが、まずあそこは霊が住む島、ヤオヨロズの神々がいます島として、マルティニクやバリと比肩しうる地域だということを強調したいのは、何も島じゅうに石敢当やガマ、御嶽(ウタキ)が存在することばかりではなく、それが実際に信仰や冥界からのお告げが降臨する場所として生きて人々のあいだに存在しているからだ。そんな島の食べ物は、為丸さんに言わせると「貧しくて、みすぼらしい」そうだが、じつはこれを食べると体のあそこにいいという考えがかなり徹底していて、一見、健康オタクと見なされかねまじい密度で薬屋があるという島の事情と根はひとつではないか。何を食べたらどこにいい、ということはイチゲンの旅人である私たちにはよくわからないが、勧められるままにあれこれ食べた旅のあいだじゅう、体調はおおむねよろしかったようだ。まあ、三泊四日の旅行にすぎないのだから、沖縄の食に関してあまりおおきなことは言えないのだが、そのざっとした印象を過客の目をもって語ってみたい。
 まず、突き出し風の食べ物を考えると、島辣韮やミミガーなどが思い当たる。島辣韮はヤマト風に甘酢の漬物として出されることはなくて、生のままを鰹節醤油などで和えてあるのを齧るのだから、ヤマトの若辣韮に比べてもはるかにやさしい味がする。ミミガーは豚の耳であるが、私の思っていた台湾風のそれとはちょっと違って、もっとあっさりした味わいの、湯がいただけのを千切りにした、歯ごたえもかなりあるものだった。もちろん合わせる酒の最初はオリオンビールである。それから、為丸さんなどからは敬遠されそうな、那覇市内のちょっと気取った店の突き出しに見られた海ぶどうというのは、あれは植物性なのか動物性の食べ物なのかということが、いまもってわからない。なんだか頼りない海産物であることは、その汐の匂いから判断がつくとはいうものの。
 次にプリモ・ピアット風の料理を考えると、当然ゴーヤーチャンプルーやグルクンの揚げ物などが登場するが、特にゴーヤーチャンプルーに関して独特だったことは、苦瓜、卵、苦瓜以外の野菜のほかに必須な食材として肉が挙げられるけれど、その肉がバラ肉の塊ではなく、米国製のランチョンミートであることがしばしばであったことだ。家に帰ってその味を再現するのはなかなかむつかしかったが、あるとき魚肉ソーセージで代用してみたら、びっくりするほど似た味になったことはここに記しておく価値があるだろう。為丸さんのように、貧しい、と言っては私にとって語弊がある、何か懐かしい味とでも呼べばいいのだろうか。似たようなことは、糸瓜の炒め物や、昆布の炒め物であるクーブーイリーチーなどにも言えて、いずれも、料理法にてらいのない、普遍的な懐かしさみたいなものを感じる。ここでは泡盛のロックかお湯割りが似合う。
 沖縄で、セコンド・ピアットに挙げられる料理といったら、まず豚料理にとどめをさすだろう(店によっては山羊料理のようだが、今回の旅行では相伴に与れなかった)。ミミガーのように小鉢にちょっぴり、というのではなく、ラフテー(角煮)にしてもテビチー(豚足煮)にしても、またラフテーを載せて麺に灰汁を加えたソーキそばにしても、器にたっぷりと盛られた量の、その素材と見てくれとは逆に、きわめて上等な軽さとでもいうものが身上で、これは長崎の角煮でも中国のトンポーローでもない淡さみたいなものが、ストレートでやる島のクースー(古酒)と絶妙である。また豚は、これら正肉ばかりでなく、公設市場の写真には必ず登場する豚顔面の皮やナカミ(内臓)などもおおいに利用されている。顔面こそ食わなかったが、ナカミ汁やナカミイリーチー(内臓炒め)は、旅行中、盛んに食べた。汁といえば、公設市場の食堂でも高価なメニューのなかにイラブー汁というのがあって、それはウミヘビ(有毒)を干したやつの吸い物で、一種の強精剤とのことであった。夫婦で頼むのもなんだか恥ずかしくて食わずじまいだったが。
 イタリア料理でいうと、ここいらへんでサラダかコーヒーなのだが、ここは沖縄なので夜は限りなく長く、宴も続くので、クースーでやってこたえられないものを一つ二つ挙げておく。まず、良い(古い)クースーであればあるほど、それと切り離して考えられない酒のアテが豆腐ヨウである。極論すれば、良いクースーとサイコロ大の豆腐ヨウ二つ三つで夜を徹して呑むことができる。紅い麹に漬かった豆腐ヨウはものによっては購入してから半年ほど置くと熟成がさらに進んで味を増す。そのねっとりして濃い味は、植物性のものの範囲を超越して、ほとんど動物性の素材の香りというべきだが、そのことは強烈なクースーに豆腐由来のものが堪えうるという事実と相俟って、この食べ物を前にして不思議の気さえ起こさせる。人間にとって、かくも不要不急のものが存在するということは、なにものかによってわれわれに与えられた祝福にほかならない。次に、豆腐ヨウほど個性的ではないが、島で愛されている泡盛のアテにすくがらす豆腐というものがある。これは角切りにした豆腐のうえに一匹ずつ、すくがらすという小魚の塩辛を載せたもので、まあ、ヤマトでいう酒盗豆腐に似たサカナと考えればよい。豆腐に載せるのは、すくがらすの塩辛の辛さが半端ではないからだ。これを摘むとき気をつけなければいけないのは、すくがらすの硬い鰭で怪我をしないようにすることである。それにさえ気をつければ、ちびちびとやる島酒と小鉢ひとつのすくがらす豆腐で、マルティニクともバリとも似て異なる、霊に満ちた沖縄の夜は更けてゆくだろう。

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