うろこ新聞 2001年月日
うろこ新聞 目次前頁(うろこ新聞 2001年9月3日号)次頁(うろこ新聞 2001年9月1日号)
Shimirin's HomePageUrokocitySiteMap


うろこ新聞 2001年9月2日号



夜顔
 夜顔の花が近所に咲いていた。かんぴょうになる夕顔とは違うそうだが、「夕顔」とも呼ばれている。
 幼いころ、この花の近くに蛾がたくさんいたのを覚えている。蛾が暗くなるとよく飛ぶというイメージが残っている。
 今見ると、大きくて華麗な花だ。舞台は夜、というところが似合っている。

  蛾が飛ぶ
  蛾が飛ぶ
  路地は暗くなりつつあって
  夕食の支度の時間
  まずしい食卓の映像は
  いつのまにか消えてしまう
  蛾が
  街の夜の顔の
  フィルタを通るから


ヤブガラシ
 ヤブガラシは、夏の間どんどん生垣の上まで蔓をのばしていた。田舎の家でのことだが。勢いのいいヤブガラシは、野を歩くことをいつも思い出させてくれる。

  おぼえているかな
  野を分けて進むこと
  野は苦い味で
  とても苦く
  苦いからそれだけ
  ため息の出るほど
  そのにおいを嗅ぐ
          (鱗造)


【倉田良成の解酲子飲食 20】

匂いの都

 ローマの魚介類には辟易したとまえに書いたが、スカンピという、日本では手長海老や赤座海老に相当する眼の可愛らしいやつには十分魚介の持つうまさを堪能した。あのイタリアの首都にして世界の古都の昼餉時は、街中がバジルや大蒜やオリーブオイルの匂いで包まれる。そこに軽自動車の排気ガスと昨夜来のグラッパの余香も混ざって、独特の雰囲気を形成する「匂いの都」となる。そんななかでこのスカンピのグリルやそれの入ったリゾットを、悦に入ってワイン片手に再三再四注文したが、これは単品の料理のうちでは比較的高価で、グリルのほうはごく自然にそのときの食事のセコンドピアット(メインディッシュ)になった。海老がメインディッシュとはなんだか頼りなさそうだがそんなことはなくて、出てきた数尾の縦割りの海老の堂々たる体躯は半端ではなく、土地特産の青い苦みを帯びたレモンを搾ってほおばる締まった白い肉の甘さには、立ち上るローマの喧噪に囲まれた昼の酔いとも相俟って豊饒な幻を感じた。これがこの街の魔力なのかという感慨は正直言ってあるが、スカンピとは別に、フンギと呼ばれるキノコのソテーや山のように盛られたルッコラの、咀嚼すると胡麻をすりつぶしたような風味がたつ味わいに、同じようなローマの街の秘密めいた体臭に似たものを嗅いだ気がしている。

うろこ新聞 目次前頁(うろこ新聞 2001年9月3日号)次頁(うろこ新聞 2001年9月1日号)

Shimirin's HomePageUrokocitySiteMap