うろこ新聞 2001年月日
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うろこ新聞 2001年8月19日号



 鼻をぺろり。


「遠い花火」というのはロマンチックだが、その遠い花火を東京のところどころ高い建物の間から覗くのは、疲れる風流だ。多摩川の岸で打ち上げられる花火、遠いからちょうど花が開く時をカメラでなんとか捕らえたという感じ。


【倉田良成の解酲子飲食 7】

香草の魔窟

 においのあるものとなると、発酵食品はもちろんそうなのだがもっと端的に、ハーブの類にも言及しなければなるまい。それひとつ添えるだけで、とりわけて変哲もない肉や魚がたちまち強烈な異国の香を放ってくるのは、例えばかの香草などでおおかたの向きは経験済みなのではないだろうか。このシャンツァイともコリアンダーとも地域によっては呼ばれるハーブは、何か鉱物系の芳香を持っていて、私がそれをしたたかに体験したのは渋谷にあったタイナンターミーミェンという店でであったが、相席などおかまいなしに詰め込まれるテーブル席で、結構盛装した男女の群れが、豚や牛の内臓にも蜆にもヌードルにも山盛りに添えられるパクチーのにおいで口のなかをいっぱいにしていたのは、善かれ悪しかれバブルの頃の一風景ではあった。この鉱物系の芳香はどこかしら人間の感情中枢をつよく刺激する作用を有していて、日本の歌謡曲が広東語で歌われているバックグラウンド・ミュージックとも相俟って、道玄坂の丘のうえがなんだか南十字星のきらめく東南アジアの場末に一変したような気にさせた。あの頃は日本人もまだまだ傲慢で元気であったから、ちっとも高級でないその店で、二、三人で三万くらい使うことは何でもなく、ヴァーチャルな魔窟という雰囲気もわるくはなかったから、たとえ厨房の扉が開いて地獄のような熱気のなかから牛一頭の丸焼きが出てきたとしても驚かなかったと思う。

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