うろこ新聞 2001年月日
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うろこ新聞 2001年8月14日号(8月下旬記事増殖号)



 8月14日、自宅から南を望む。今日も暑そう。


増殖可能
「編集室/雑記帳」でもアナウンスしたように、「うろこ新聞」は“記事増殖可能”としようと思っていますが、日々は流れていきますので、「記事増殖号」というのを一応設置しておきました。この号を“記事増殖可能号”にしておきます。(^^)



【倉田良成の解酲子飲食 3】

春野菜

 春野菜を食べるということは、なかなかに心弾むものがある。餓鬼の頃から野山で摘んできた蕗の薹、土筆、蕨などの、いかにも土臭い灰汁っぽさにも春まだ浅いひかりの気が満ちているが、むしろたけなわの、八百屋の店頭に普通に並ぶような玉葱や馬鈴薯や莢豌豆などのありふれた野菜のほうが柔らかくて甘く、味がよい。たしかΟ・ヘンリーの短編だったと思うが、貧しいタイピストの娘がニューヨークで働いていて、その働き口というのがレストランのメニューをタイピングする代わりに三度の食事を給仕付きで頂けるというもので、春が近づく頃、メニューにはアスパラガスやキャベツ、新人参などの春野菜が並び、そのなかでタンポポのゆで卵付きというのが印象的だが、長く離れている田舎の恋人のことを思い嘆きながら打ったそのメニューが「春になると青いものが食いたくなる」という、彼女を探しにあてもなくニューヨークに出てきた青年農夫の目に留まる。彼女の部屋に飛んできた青年は「どうしてここが分かったの?」と問う娘に、涙の跡のあるメニュー表を見せる。そこには癖のある打ち方で「ゆで卵付き、いとしいウォルター」とあったという話で、この筋書きには少なくともヒレステーキなどでなく、春野菜がいかにもよく似合う。二十世紀初頭のニューヨークでどんな野菜が売られていたのかよく知らないが、この短編の雰囲気は、コクがあって甘い、たけなわにむかう春の味のような気がする。

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