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新時代

Suzuki


秋の気配が立ち込めているのは
特に何のためでもないが、
それでも俺たちは特別な感慨を持つ。
苛立たしい衰退と混乱の時代のとば口で、 
秋の新番組祭りのTV特番を見ている。

枯死したひまわりの残骸は
種子を抱え込んだまま空を向き
仰向けに倒れ込んでいる。
閉ざされた雨戸の向こう側で、
世界は底知れず緩い夜に沈没している。 

ロンドンブーツの淳が解答者席で立ち上がり、
何かしきりに喋っている、真剣だ。
裏の番組ではアメリカ同時多発テロ事件を総括しているが、
貿易センタービルに旅客機が追突する映像はもう使わない。
彼等も俺達も飽きたのだ。
だが、飽きたと知ることも怖いのだ。
死も消費されすり減っていく。
どんな演出をしても摩耗を防げない。
自分の運命を知るのが怖いのだ。
そう思いながらビーフシチューをすする。 
涎を垂らしてよたよたする牛の映像を、
スプーンの湾曲面に投射しながら。

社民党が女性の党になるという。
まぎれもなく原始女性は太陽であった。
今は太陽を追った巨大な花が地に崩れ、
腐敗した肥沃な夜に沈み込む。
俺はカウチに沈み込んでTVリモコンをもてあそび、
飲料会社と前東京都知事から、
「明日があるさ夢がある」と聞かされる。
明日はないのだ。

ただ、俺達のいない次の時間があるだけだ。

うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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