化紫陽花

yoyo




じくじくとなめくじ這っていました
生温かな酸素流亡しておりました
時折、著しく落雷のある雨
余所様の軒先で雨宿りしながら
寸暇を惜しんで竹薮の横丁を
駆け足で通り過ぎると婦人会の集う茶室

わたくしも濡れてはと招かれまして
お抹茶を一杯たてて頂きました
上品で清楚な和服姿の藤子さん
斜向かいに住んでいらっしゃる令嬢
宵越しにあのお方のピアノ憧れておりました
噂話では重い病をお持ちだそうで

茶室での近所の奥様の歓談がちょうど終わるころ
雨も弱くなっておりましたが
藤子さんが傘に入れてくださるというので
お言葉に甘えてランプ灯の下の街路地を
たわいのないおしゃべりをして
てくてくと家路に向かいました

途中藤子さんの様態が終わくなり
肩を抱いて歩いておりました
みるみるうち形相が変わっていくのです
心配になりまして顔色を覗うと
青紫に変色しておりました
これはいけないとおんぶして診療所まで

小ぶりの雨の中走って走って
暗がりを走って走って診療所がみえるころ
藤子さんの吐息が白く翳んでまいり
だんだん軽くなっていくではありませんか
わたくしはそっと振り返りました


背負ってきたのはなんと一輪の大きな紫陽花
声はなく雨がわたくしを濡らしておりました




うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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