なお遠くへ

洛陽


時は早朝
つんのめる寒さに押し出され
遠く山の稜線がくっきりと橙に染まり始める
街の看板から
ガソリンスタンドの白い塀から
高く電線にとまる冬越えの小鳥の影から
置き去られた自転車のサドルから
世の中が白く降り積もったその柔い感触に
橙が置き染められる

そんな感情を冷たい手において
ストーブに火を入れる
ゆっくりと、ほうほうと赤く点く前に手をかざす

いつしかしゅんしゅんと鳴り出すやかんの音
猫はまるくなって眠っている
外は寒い
それだのに
ここは暖かいから
私もまるくなって
あなたを膝にのせている

橙が白くなりはじめて
まるくなって
まるくなって
ぎゅっと抱きしめると
爪が立った

外は寒い

抱きしめるのは
悲しいからとか
寂しいからとか
嬉しいからとか
ではなく
ただ、なんとなく
ぼうっと
遠くの方へ行きたいからなんだ

朝早くから
世の中の橙が照って
それから白くなって
手が冷たかったことを忘れて
交差点をたくさんの人が渉る

抱きしめるのは
ただ、なんとなく
ぼうっと
遠くの方へ行きたいからなんだ

外は寒くて
遠くの山の稜線が
今日は嫌にくっきりしている


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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