春 もしくは転位

石丸デンキ


昼になると
軒下の氷柱もとけ始め
光がいたく目にしみる
死んだものらのまなざしを思慕して
ゆがんだ心の繭をつくって目を閉じた
もう壊れるもののない三月
気まぐれな子供らにわすれられた
小鳥のお墓のように
いつのまにか消えて行く
山の向うへ
遠い思い

始まりの日
鮮血の軋みと引き替えに何に
近づこうとしていたのか
転がっている枯れた植木の鉢よ
けっして葬られることのない日々よ
花茎の垂直の
くろずんでいく迅さで
あの人たちはもうその始まりが
あったことさえも無視し始めている
夜明け前から
水晶のかけらをぎしぎし踏んで
退路を行く
この街にわたしがいないことを
あの人たちは突然思い出すこともあるだろうか

春のやわらかな泥のなかで
もう一つの始まりがあるとすれば
今では手遅れにも思えるが
ようやく深く
冬の日々を埋葬することができる


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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