歯車

yoyo



カチャッとピストル撃って、たたんで。
カチャッとピストル撃って、たたんで。



工場作業は朝9時朝礼ではじまる、それは社会の無機物の一部になる瞬間。
値つけは季節の移り変わりの直前とボーナス直前が一番忙しい。
値段をつける商品は多種多様で、スーパーや百貨店に並んでる品物全て。


工場の内部にはダンボールがうずたかく積まれて、太陽の光は入らない。
世界各国から貨物船やエアカーゴに乗っかってやってきた工場製品たち。
最近は蛍光灯に映し出される文字魚肉香腸儿魚肉ソーセージ、蒼蝿拍子蝿たたき、匙圏儿キーホルダー、厨房玩具ままごとセット中国語で書かれたものでいっぱいだ。



荷物を積みおろすのは男たちで、たいがいフォークリフトを使ってやっている。
細かい作業は女たちで、テーブルに向かい合って一列にならんでいる。
道具はカッター、ガムテープ、はさみ、ピストルだ。
通称ピストルは値つけの重要な位置を占める大事な道具。
綿、絹、合成繊維は引き金ひとつ引くだけであっという間に値段をつけられる。
万が一手をすべらせても怪我には及ばない親切な道具。



ダンボールを開いてみるが異国の情緒は全くなくて、
経済力の強みなのか日本好みの商品に製造されているものばかり。
なんの面白みもないままに、黙々と製品に値札をはさんでピストルを撃ちはじめる。



カチャッとピストル撃って、たたんで。
カチャッとピストル撃って、たたんで。



立ちっぱなし、撃ちっぱなしの数時間、倦怠と疲労はとっくにピークを越えている。
商品も大体見飽きてしまって、値札が全部うまくついたとほっとする暇もなく、
ダンボールに積めなおしたら、また新しいダンボールが次から次へとやってくる。



カチャッとピストル撃って、たたんで。
カチャッとピストル撃って、たたんで。



頭はどんどん朦朧として、何がよくってこの仕事選んだのかも忘れてしまっている。
外が暗くなった頃には、意識にはただただピストルの音が残るだけ。
歯車どうしが重なるように聞こえて、労働者を癒すことなく響いている。



カチャッ、カチャッ、カチャッ、カチャッ、カチャッ。
カチャッ、カチャッ、カチャッ、カチャッ、カチャッ。



家路に向かう電車や車の騒音たちも、明日の作業のに呼応して、
だらだらと夜道に肩をおろして歩いていけば、すれ違う人さえ値段がつく。
そんなことの繰り返し、どんな人生なのかさえ振り返えることができない毎日。



ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ、ガッシャ。
ガチャ、ガチャ、グチャ、グチャ、ベチャ。



この仕事をはじめてもう十数年たってしまっていることも、
身体がだんだんいうこともきかなくなって壊れてきてしまっていることも、
知ってはいながら、働きつづけなくては生きていけない日々。



カチャッとピストル撃って、たたんで。
カチャッとピストル撃って、たたんで。





うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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