野辺送り

まつおかずひろ(hiro)


鏡の向こうに
死体が転がっていると思っていたが
それは俺らしい
回転ベッドの上で眠るおとこの
あそこは恥ずかしいくらいに縮こまっていて
陰毛に取り囲まれている
イガグリならば幾分硬質のはずが
割れた先っちょは柔らかそうで紫色になっている


回転ベッドの上で回転したのはいつだったか思い出そうとしたら
海辺の観覧車が浮かんだ
女はすっかり極楽へ行くつもりである
俺は女の顎の下を見ながら
ぶつぶつ経を続けている
頂上で女は突然巫女になって叫び、胸をはだけ白い乳房を見せた


本当に死んだのか、それとも死ななかったのか、定かでない。


野辺の草は枯れている
下草はそろそろ緑を見せてもいい頃なのに色はない
そう言えば
幟もない  
旗もない 
音もない
土と枯草と煙ばかりだ
送る人間は俺、送られる人間も俺
両方とも煙に近づいている
人を焼く臭いを嗅ぐ瞬間、今度こそ俺たちは本当に眠れるだろうか


鏡の前で男は立ち上がった
毎朝そうするように一番に裸で放尿して
顎に泡をつけて髭を剃る
すると自然に鼻歌が出てきて今日の予定が回転し始めた
九時に出社
十時半にA社を訪問
昼はうなぎ丼
二時歯医者
五時から会議
七時にカノジョと会う
・・・・・・何人目の俺か忘れた。



うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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