花の粉

清水鱗造


笛に似た花や
砂糖の粉の花が
通っていく

駅を通るとき
リュックを背負った人たちが遠ざかる
川のふちを犬がとぼとぼ歩いているのが小さく見える

笛を吹いて
砂糖を撒いて
この車両はいっさんに駅を通り過ぎて
地の溝をぬける

そういえば
かばんにはマンガがあったし
文庫本もあったし

誰もいない畑もいいけれど
雑踏もいいよ
いなかでは夜は真っ暗だしね
なんて言う

「コーヒーを買おうか」と言ったばかりだけど
ぼくはあなたに言うだろうか

橋の上を走り
低空で飛ぶ飛行機も見えるけれど
腕組みをして目をつぶる

ぼくの
ひたいの
あたり
花の
粉が
ちらちらして
小石に座った
小さな人が
笛を鳴らす


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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