そこからどこへ

まつおかずひろ(hiro)




(@)デカルトの末裔たち

日があたる
風があたる、雨もあたる
ナマズが底を揺らしているかもしれない
アメンボだってすべっているように見えるが
細い足先では水面をはじいている
みんな水を動かす力だ

水はどこへ動くのか
動いているのか
見えるか

頭の中は
「わかる」という目的のために
ファイルを引っ張り出して落ち着き場所を探したり
どこへいくのかと行き先を尋ねたり
砕いたり跳ね飛ばしたり
スキップする

大きな流れをみるために
わかる部分を記号にして小さな宇宙をつくる
世界はぜんまい仕掛けの時計と錯覚させるようになった
いのちは遠くなってわからなくなった


(A)痩せたカエル


大草原に
放り出されたとしよう
空腹と渇きをどうするのだ
見えない目 聞こえない耳
手がかりは?

毛むくじゃらの男が
素手で青大将をつかまえた
鳥が急降下して魚を咥えた

しかし・・・

世界中に
網の目が張り巡らされて
情報の時代が来たと喧伝されている
女性の裸やら株式市場の電光掲示板やら
ゲーム機の宣伝やらまぜこぜで
人間の声はかすかだ

入口に立ってはいるが
頭の中は古いオートメーション工場
二十世紀の記号たち


(B)記憶めくり


山を守るために
自分が石になって
と思ったら山は削られ
居場所はいつの間にかない
曲がらない関節
脂肪質の腹

言葉は
赤青黄の信号機に負け
井戸端会議も
なくなった

懐かしい洗濯場
近所の小川におばさんたちが
たらいと洗濯板を持ってやってきた
あひるがあっちへ行ったりこっちへ来たりで騒がしかった
夕方になってブトが飛んできて腿をピシャリと叩いた
もっと暗くなるとコウモリが
背中を追い越した

だれが
何を教えよう
というのでもないが
世界は日々開かれて心にしみた
神秘的であれ非科学的であれいびつであれ
なまの言葉から世界がひろがった


(C)入れ子


その部屋は
小さな部屋だが世界とつながっている
肌が恋しければ勝手に集まる
話したければ話す
沈黙も有りだ

大勢が集まるから
おんなじ地球が違うように光る
しゃべるから色にも音にも味にも敏感になる
風が運んでくる獲物の匂いもわかる
怒りを押し殺したりはしない
空気は自然に吸う

噛み砕く力を感じる
唾液は最高の香辛料
一〇〇キロ先の雨雲も読める
ナマズのあくびも見える

傍観者でない
かりそめの姿でもない
気がつけばやりたいことをやっている
泳いでいる
動いている

大きくなったり
小さくなったりしながら
いろんな世界も駆け巡れたらいいな
風景や匂いやリズムをびんびん感じながら……
しかし
そこからどこへ?



うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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