Honesty

けんじゅう





あなたのお父さんは
あなたが産まれて
一度だけ
あなたのお母さんを訪ねたのでした

そのとき
あなたのお父さんとお母さんが
どんな会話を交わしたか
知る由もありません

何でぼくが そんなことを
まだ18のあなたについて
考えるのかというと

デートの日
「わたし Honesty が好きなの」
そう言って あなたは
ビリー・ジョエルのその歌を
しきりにリクエストするのでしたっけ

帰りぎわ
いきなり抱き寄せたとき
あなたは猫のように軽く抗って
くちびるを背けたのでした

「酔っているから」

そのとき さりげなく発された 
あなたの大人びた一言が
妙に焼き付いたまま

その拒みが
赦しであったのか そうでなかったのか
あなたの無表情からは
窺い知ることもできぬまま
ぼくは 帰ったのでした


あなたのお父さんは
あなたが産まれて
一度だけ
あなたのお母さんを訪ねたのでした

あなたは 
そんなお父さんをどう思っているのか
ぼくは計りかねて 
あなたに会いたくなるのでした





うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
UrokocityShimirin's HomePageSiteMap