水島英己
海に抱かれた岬がたえまない波の浸食をうけて険しい断崖を歳月の贈り物のように
おのれの姿として落日の下で受け取るとき
クソカズラがその一生をかけてイバラに抱きついているとき
これらの言葉なきものにことばを与えたものが死に絶えるとき
私たちは泣いている
苦しむことが不可能になったせいで泣いている
すべての不可能と可能は防弾ガラスによって透明に隔離されているので
すべての文明は美しい古都を瓦礫に化して私たちを招き入れなければならない
その出来事は私たちが意図して創ったのではない
谷間の村には有毒ガスが噴き上げ、日干しレンガの壁は懐かしいものたちを圧死させる
窓の向こうの悪意にむかってことばなきものたちが発作的な痙攣をひきおこすほどに
「植物の忍耐、動物の優雅さのために」たしかに称賛せよとウィスタンは歌った
たえず出来事は次の出来事に変換され、砂漠・空白のなかでヒトが泣いている
舞い上がる歌も傷もなく私たちは静かに出来事を待ち望む、違う出来事を
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