足立和夫
ぼくのからだの穴のなかで
ひとつの硬い記憶が
ふっと見え始める
小学六年生だったか
友達の部屋で
仲間三人くらいで遊んでいた
部屋のすみに鳥かごがあり
一羽の生き物が世界から封印されている
静かだった
ぼくはそこを見なかった
それが何であるかわからなかった
ところが突然
生き物が飛び出してきて
空を切り裂き
翼の音が部屋の空気をつらぬいた
異形の叫びが耳に突き刺さる
友達が鳥かごの封印を解いたのだ
恐怖がこころのなかで爆発した
その眼は
ぼくの眼に通じていない
止まり木に戻ったその足は
爬虫類のようでもあり
異物であった
決して和解できない存在である
ぼくは恐怖の塊を取り除くことができない
そのとき驚きと共にわかったのだ
世界という存在はついに異形そのものなのだと
理解を割ってしまうものであり
その生き物とは世界が異形であることの
告知者なのだ
ぼく自身がおぞましくもその生き物なのだ
すべては説明できないと知った
説明とは人間が発見した儀式なんだ
生きつづけていくための |