偶感二十八
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偶感二十八



倉田良成

 奈良にて、夏
短夜のくらがり越ゆるおもひかな
夕さりのはてなし霞む暑さかな
夏安居やゆゆしき仏も陰の中
夏山や当麻の道の田の匂ひ

 うたて此世はをぐらきを/何しにわれはさめつらむ、/いざ今いち度かへらばや、
/うつくしかりし夢の世に、(松岡《柳田》国男)
はるのあめ鋭(と)き少年は束の間に
蕗の葉のほのかに苦き人なれや
酒飲めばうたてをぐらき春の人
誰に春のゑひの悲しみ語るべき

 木挽町舟よしウイスキー瓶銘
門々に冬きはまりて鬼やらふ

 夢中吟五句
晩節を全うしてや草紅葉
くらやみの凄きを歩む枯野かな
たれが屋敷この夕暮のほととぎす
鶏頭やひたすら山羊の肉食ひたかり
雷鳴に色変りゆく葉宇の雨

 東大寺にて
花過ぎてなほ降るものや大甍

 高ばし伊せ喜にて
こころざし枉(ま)げて歓あり泥鰌汁

 二十六歳のときの杉山神社研究ノートをひらく
産土は従五位下にして春田打つ

 正岡子規は若くして死んだ叔父のような懐かしさがある。九月十九日快晴
むかし壮夫(をとこ)路地にありけり獺祭忌
糸瓜忌や明治の空もかく青き

 平成癸未歌仙発句
のぼり来れば昔の匂ふ花茨

 よられつる野もせの草のかげろひて涼しく曇る夕立の空  西行
日闌(た)くるに夏草となる野の陰り

 日野研一郎氏より隠州都万村産高正宗二本贈られる
たぷたぷと隠岐のうねりや秋二升

 深更、γを膝に
漸寒へ猫一匹とともの寂

 いまは秋だが
夕映やおもしろき世に端居して

 連句仲間、美江さんに初孫誕生
御秘蔵の初音祝へよもゝちどり

 偶感
天つ雁見るべきほどの事は見つ

 ひぐらしやわれに急ぎのことありて声降る木々も残しゆくかな  駿河昌樹
蝉のこゑ木々のうれより降りそそぎ昼の沐浴みの水のさやけさ
昨の夜はわれに背ける夢の妻のかなしきまでの若さはかなさ  


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