睡魔
足立和夫
睡魔とたたかう朝
満員電車のなかで
目を瞑り
睡魔をとりのぞこうと試みる
この試み自体が朝の儀式
ぼくの周りに林立する人体
空に落ちていく目玉が見るものは
すべての人は過ぎ去りつつあるということ
だれもが閃光を放つ生涯を送っている
一瞬 視角の暗闇に穴を穿つ
人のかたちのなかに
それを見る
石の無表情の裏側に
それはある
わかりにくいかもしれないが
ひとつの生涯の死は
全世界が
消え去ることだ
ぼくが死ねば
全世界は
消滅する
わたしたちは苛酷なものを持つ
逃れようと試みれば
正気を失う
そうなのだ
神なき創世紀は
いまだに続いている
真っ最中
それでも睡魔は
去ってはいかない
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