DOLL M
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DOLL M


片野晃司

鳩はべりべり剥がれて
雨雲に帰っていった
目覚まし時計が地面の下でごりごり鳴った
いやな埋立地だった
濡れた靴はもっといやだった
ぼくの足はプラスティックだった
自転車があったらよかった
いさぎよく踏める土なら
もっとよかった
埋めちゃえばよかった
美しさを諦めた国
美しく諦めた国
諦めが美しい国
街ごと埋めちゃえばよかった
生活ごと埋めちゃえばよかった
それでも電話は通じる
メールも届く
ここももうすぐ埋まる
水溜りを飛び越える
6月
すべすべした手触りの
隣の席のMさんの肘を思い出す
僕のほうへはみ出た肘は
固い音がした
それは事件じゃなかった
安いモーター仕掛けの
ぴかぴかの肘
ちょっと僕のほうへはみ出ただけなのに
叩かなくてもよかった
おでん臭くて湿気っていて
泡立っている運河沿いのコンビニで
何か買ってあげたかった
できることならキスもしたかった
戻ってきたら
埋め立てられて
Mさんは土の下だった
諦めるしかなかった
僕ももうすぐ埋まる

その夜
Mさんへメールを出した
Mさんの上に道路ができて
魚を積んだ保冷トラックが何台も
何台も走っていくのを想像して
そのたびに心臓が膨れあがり

それから
鉛のベッドをすこし窪ませて眠った
ごめんなさいMさん


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