寝ぼけ草
文旦(松尾龍之介)
てのひらに牛の鼻息雲の峰
牡丹寺寄り目あらはに鬼瓦
夏雲の湧くを見てゐる目の痛み
石投げて萍に穴つくりけり
ふるさとの蝉の聞こゆる電話口
赤腹のもんどり打って潜りけり
末若葉仕事の捗の行く日なり
初秋の水はみがきを含みけり
朝顔や食後の猫の身づくろひ
秋の夜の石膏像に白き布
振り向いて秋の燕と訣れけり
星降るを見ている額のこそばゆし
川上は別の川の名茸狩
胸倉に入るる風あり芋畑
入れ代わり立ち代わりして小鳥来る
月に飛ぶかげらふの翅十文字
島国をはみ出しにけり鰯雲
稲雀草屋根に影浴びせけり
露草の一花余さず吾に向く
月の夜の国を離るるエアライン
我ながら機嫌良き日や種を採る
ががんぼの寝押しとなってゐたりけり
秋空へ三国一の大鳥居
永き夜の短波放送うねりけり
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