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季碑 交信
海埜今日子
手紙をつづろうとする彼、あまりにもふるえる枚数、失われなかっ
たものを見のがす、見のがさないために、ふるえる指の彼、かさば
る紙面、彼の日付に出向きたい、引きとめられる、押しもどされる
比例について。水にあらがう視線、ほつれた行間、残り火のような
文字に隠れる。
彼は投函をまどいつづける、手あたりしだい掴まれた昨日、穴のよ
うな紙片から、私、差しいれてみたかった、剥がれつつある瞼の脇、
毛羽の目立つ便箋、一滴、そして三滴の。だれの過去も明日だった、
立ち上がる空白、差しもどされる、返信のたおれゆく、彼らの眼、
滲ませるにはなお足りない。
かたわらで、日記をやぶく、愛された子として、流れついた独りを
見いだす。かたわらで、むしりつづける、鏡のない文字、彼らの視
線、白眼だけがおぼえている。見つけること、つまずくペン、配達
された、されないかもしれないページをめくる、耳のような記述が
あった。痛い瞬間の降りしきる。
愛された子、と添えたかった。おびただしい通信が、彼のありかを
ふるわせる。指のとける彼、とじられない眼の奧で、うずくまる子、
見られていた? 交わされる、だれかが瞼を差しだした、一滴、彼
ら、三滴の。うろのような文字がおぼれる。
あるいは夜のなかの白昼。澄んだ瞳が流れだす、砕かれたペンの跡、
筆順を追う、抱擁される、したかったことへ、たちあがる子、少し
の傷が封にあふれる、届いた便り、届けられたかもしれない便り、
染みこんだ眼のつづる、つづろうとする、かわいた切っ先が私にぶ
れる。痛んでいる、眼差しのなかで彼はやさしい。
(『季碑』思潮社、2001年刊より)
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