言の葉の裏に(金丸桝一さんの死)

言の葉の裏に(金丸桝一さんの死)



谷元益男

昨年の暮
静かで草樹の芯まで冷える日
あなたから便りが届いた
病は書かず いつもの温か味のある
文の中にひとつ酒と煙草を
絶ったと書いてあった
あれほど好きな酒を――と思い
書かれていない病の気配を
離れた空の一角に覚えた

それから半年も経たない内に
“いま”をめくって
旅立って行った金丸さん
だいぶんと早足で 好きだった
酒も再びのもうとせず
静かな柔かい若葉の裏に
あるいは あなたが言う
「きょう」の「日」があるその裏に
ついに

ぼくは告別式の後
離陸した機内から
その体を残して欲しいと思いつつも
あなたが焼かれ
一筋の煙となって昇るのを
見た気がした
顔をおおう透明な手の中に
透明な涙を一杯流した
だが あなたは
優しい言葉を口にしながら
言の葉の裏から見守っている?

これからが桝一さん
酒を飲み 詩を食べる時間
ですョ
少し小さい盃と 一筋の
ひかりのもとで

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