A City of WORLD's END

ame*




僕はかつてよく旅に出たものだ
それまで住んでいたところを離れてあちこちさすらった
それはあなたたちが想像するほどたいへんな事じゃない
だってちょっとドアを開けて出て行っただけの話だから

寂しさを感じたことなんて一度だってなかった
それは一人になって初めてわかる事かもしれないけど
雲や海や砂漠の方が家族や隣人たちや友達より
よっぽど波長が合っていて僕のことを理解してくれる
それに僕が遠くへ行ったと自分で言うのも可笑しな話だよね
いつだって今自分のいる場所が世界の中心でしかないんだから

中古の車が壊れたら乗り捨てて
だけどギターとブルース・ハープは持っていったんだ
どこかの街角でちょっと歌えば
その日のパンとチーズとワインを買うくらいの金は手に入る

 If you`re travelin` in a City of WORLD`s END
 Remember me to a girl who`s once my lover

そうやってかなり長いこと旅を続け
僕は“世界の果て”の都市に辿りついた
どうしてそこが”世界の果て”かと言うと
「超ひも理論」でそれが証明されているからなのだそうだ

“世界の果て”の都市の人々もだいたいにおいて一般と変わらない
あなたが授業で習った事を忘れてなければ
多くの人間たちの生存には酸素や栄養と共に
ジェラシーや差別が不可欠なのがわかるはずだ
アイデンティティーにそれらを供給し続けないと
自分の実体が消失してしまう恐怖
それは1秒たりとも人々の頭を離れる事がない

 If you`re travelin` in a City of WORLD`s END
 Remember me to a girl who`s once my lover

“世界の果て”の都市の海原を見晴らせる丘に
僕は”世界の果て”の少女と並んで座った
冬は終わりに近づいて凍てた大気の中でも光は力を取り戻し始めている
彼女が髪をかき上げるのを僕も手伝った
枯草のような感触と香りだったけれどその時はそれを悪くは感じなかった
彼女は側頭部のケロイド化した手術痕を僕に見せて言った
「SOCIETYがここに<端末>を埋めこんだの」

「この都市の市民はみんな<端末>を埋め込まれているわ
でもその事に気づいているのは私だけみたい
たぶん私にだけは<端末>の取り付け方が不完全だったのね
だからあなたをここに引き止めようとはしないの
世界中からたくさんの人たちがやって来て
ここから出て行った人はいないのだけれど」

「でも私も基本的には<端末>のコントロールに従って
ただ漠然と時間を消費して暮らしていくでしょう
友達ととりとめもなく長い会話を続けたり
髪を長くしたり短くしたりその日の食事のメニューを考えたり
アニムスを誰かに投影して結局は失望したり
それでもその男との馴れ合いの生活をずうっと続けていたりね
そして年老いて死んだら火葬されて
白い骨とインディケーターが点滅しつづける<端末>が残るのだわ」
“世界の果て”の都市の少女はずっと水平線を見つめていた

 If you`re travelin` in a City of WORLD`s END
 Remember me to a girl who`s once my lover

いつのことからかもう僕は旅に出なくなった
世界はどこまで行っても均質なことに気づいたからだ
でも例えば陽光と微風のやわらかさに包まれたりすると
そんな時ふとあの少女のことを想って
身体のなかを哀しい電流が走り抜けたりする
そういうことがあると僕はしばらくそれに身をまかせているが
いつの間にかすべては不確かであやふやものに変質していて
未来の記憶とか妄想のようにしか思えなくなっているのだ





うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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