老いた人の佇む岸辺

kuku


老いた人は岸辺に佇み
流れの先の
ただ 
その先の一点を見つめている

来し方も 行く末も
川に投げ入れて すでに久しく
流れ行くものは 何もなかった
にもかかわらず

彼は
幾筋もの流線が描く不定型な模様を
記憶しようとしているのであった

それは無意味な所作

背の向こうで声がするのだが
その囁きに彼は振り向かない

せせらぎが
ひたひたと 足元を洗い
彼は 徐々に浸食されていく
こうして 
川との同化は静かに進行しているのだった

一条の閃光
長い朱の帯
夕日は穏やかに充ち
落ちていく

流れの先の向こう側に


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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