根源的な私的リビドーとアップルフレイバーのキャンディー

芳賀 梨花子



わたしのキャンディーボックスは閉鎖的な雰囲気
零れ落ちるわたしの手のひらにはフェイク
あくまでアップルフレイバー
でも一粒舐めると甘い夢を遡上する
わたしの原始的回顧
エヴァは、何故、林檎を食べてしまったのだろうか
アップルフレイバーのキャンディーを舐める
かじらないように

  わたしは男がさびしいから生まれた
  わたしは男の一部から生まれた
  わたしは男を誘い絡み悦び孕み痛み娘たちを産み楽園を壊した
  わたしもわたしの娘たちも娘たちを産む産み落とす娘たちは増えて
  わたしの娘たちの娘たちも娘たちを産む娘たちは増える増えていく
  わたしも娘たちも娘たちの娘たちも娘たちを産む産み落とす娘たちは増える
  そして世界は創造されていく娘たちの仕業わたしと娘たちの仕業

そして、わたしもエヴァの娘
おかあさまの激しい声に共鳴する
わたしの子宮の奥底に眠るわたしは
アップルフレイバーでは物足りない

  わたしの娘たちは笑う
  わたしの娘たちは歌う
  わたしの娘たちは踊る
  そして、わたしの娘たちは知る、すべての愛の在処を知るのです
  だから、娘よ、お前も笑いなさい、歌いなさい、踊りなさい、そして愛の所在を知りなさい

ええ、笑うわ、歌うわ、踊るわ、知ってしまったことは後悔せずに
おかあさまが選び取ったようにわたしも楽園を壊してしまいたい
永遠の命などいらない
愛している、愛している、愛している、わたしはわたしの男を愛している

  娘よ、いいですか、よくお聞きなさい
  わたしの娘たちは恐れない
  わたしの娘たちは絡みあう悦びを知っているから
  わたしの娘たちは孕む悦びを知っているから
  わたしの娘たちは痛み苦しむが、それ以上の悦びを知っているから
  わたしの娘たちは産み落とす、愛を産み落とすのだ、その汚れた血とともに

おかあさま、今のわたしには、なにも産むことなどできない
臆病に慣れきったわたしに痛みに耐えうる強さをください
わたしにも産める身体をください産み落とす力をください

  娘よ、お前はわたしを踏みつけにして卑しみなさい
  それがお前の肉となり心となる
  そして力は、娘よ、お前の意思で罪ともに掴み取るもの
  わたしが汚れた血を流し罪を犯し痛みに苦しみ悶え産み落とさなければ
  お前も、世界も、ましてやその男も存在すらしないのだ、そして地上における愛も
  娘よ、どうすれば痛みも知らず汚れた血を流さずして愛を知るというのでしょう
  娘よ、痛みなさい、罪を犯しなさい、罰を受けなさい、それは愛を産むということなのだから
  愛を知れ、愛を知れ、愛を産み落とすのだ、娘よ、娘たちよ

知りたい、知りたいの、おかあさま
ここでキャンディーを舐めているわたしはわたしではないの
わたしのなかば容器のようなものであり、わたしではないの
わかっている、わかっているの、わたしは容器に愛を注ぎたい
内分泌ではすまないこの愛を
それは、おかあさまがいう産み落とす痛みを知ること
 
  娘よ、賢き娘よ、だが臆病な娘、なにをためらうことがあろうか
  お前はなにを注ごうと言うのか、愛なのか慈愛なのか
  慈愛などお前には不釣合い汚れた血から生まれた娘よ
  すべてから目を逸らすものに愛を知る術はないのだ
  わたしは愛を産むわたしの娘たちも愛を産むわたしの娘たちの娘たちも愛を産む
  お前もわたしの娘です、快楽と情念にむせぶ愛を産みなさい産み落とすのです

おかあさま、おかあさま、わたしは、わたしはあなたの、そうエヴァの娘
わたしも愛を知ることができるのでしょうか
わたしも大罪を背負うのでしょうか
わたしはわたしの男の愛を産みたい
わたしの産道をぎりぎりときしませ
男の愛を産みたい
 
  神よ、この愚かな娘を許したもう
  この娘の御霊も神より授かりしものである
  しかし、神よ、産み落としたのは汚れた血を流したわたしです

おかあさま、おかあさま
わたしは汚れた血とともに産声を上げたエヴァの愛のひとつ
恐れずにわたしは生きて回帰します、愛に回帰し、わたしは愛に生きていく
 
  そうです、賢き娘よ、闇夜はあなたの心にあるのです闇夜はいつか明けていく
  快楽は罪と言い痛みを罰と言うならば愛は生まれず命は互いに淘汰しあうだけ
  愚かなものどもは正直者の装束を身にまとっているだけ剥ぎ取っておやりなさい
  剥きだしになった剣の使い方も知らずにいることのほうが、むしろ罪なのです
  血はそのように流すものではない血は憎しみではなく愛を産むために流すのだと教えなさい

剣の使い方を知らないものをわたしの男は許さない
わたしの男は世界の剣を鞘に収めているのです

  娘よ、お前のからだは産むために愛を産むために
  娘よ、恐れることはない、罪など恐れるな、その男を愛しなさい、孕みなさい、産みなさい、愛を

永遠の命よりも大事なものはわたしの男
わたしは愛を産む、男の愛を孕み愛を産み落とす

  この世で意味があるものは
  おまえの
  その乳房
  その尻

男に愛しまれる
わたしの乳房
わたしの尻

  そうだ、娘よ、娘たちよ
  たわわな乳房を揺らせ
  豊かな尻を振れ
  男どもを産んでやれ

おかあさま
わたしは男を愛します
わたしは男を男の愛を孕みます
わたしは男の愛を産み落とします
わたしは愛に生きていく痛みを知り
愛を産む産み落とす男の愛を産み育む
わたしはわたしはあなたのエヴァの娘です
アップルフレイバーのキャンディーではなく林檎をかじりがりがりと
愛の世界、愛で満ち溢れた世界、この破壊された楽園でわたしもまたエヴァになる


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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