imaginary/I love zero

ame*





imaginary/I love zero

アイ・ラブ・ゼロ・・・
アイ・ラブ・ゼロ・・・
アイ・ラブ・ゼロ・・・

呪文のように きみは呟く

でも それに何か意味があるのか
何のためのものなのかが定かなわけではなく
もう一度 ある種の力を込めたまま呟くけれど
べつに そうしなければという
強迫観念にとらわれているわけではない

アイ・ラブ・ゼロ・・・
アイ・ラブ・ゼロ・・・
アイ・ラブ・ゼロ・・・

この世界にはゼロとマイナスしか存在しない
人々がその存在をかたく信じているあらゆるプラス
それらは 間違いなく幻覚だ

そのプラスの幻覚からは陶酔を得ることができるが
それは人工快楽だから どこかに違和感をともなっている
ドラッグのもたらす高揚の時に感じるのと同じような違和感

この世界を支配している秘密結社が頒布する化学物質
あるいは密やかに挿入されたデジタルなシステムによって
人類の思考と行動はコントロールされている

・・・・・・午後はよく陽のあたる南向きの部屋で少女はPCのディスプレイを見つめつづけるもう何ヶ月も瞬きしていない彼女はけっして部屋から出ないもちろん学校などとっくの昔から行っていない食事を運んでくる母親はそんな娘のことを不安に思わないわけではないがカウンセラーに言われたことに従っている彼はいつもこう言うお嬢さんの自由にさせてあげるのです何も干渉しない命令しないアドバイスさえもしない気ままにさせてあげるのです心を病んでおられるのですからね何度も言いますが頑張れと言うのは禁句ですよそれで病気が進行してしまいますからねそうすると不測の事態つまり自殺してしまう場合なども考えられます充分配慮されるようお願いしますよ彼の言葉に完全な信頼をおいているわけではないがそれに従うことは母親自身にとって救いになっているところもあるのだそれにと彼女は思う娘が従順に学校へ行って進学して就職して結婚してつまり自分のような人生を歩んだとしてそれがどうだというのだろう母親は考えるそうよわたしは何かに眩惑されて生き延びてきたのよひとつのトリックが終わればちょうど次の入り口が用意されているイリュージョンに中毒してこんな存在の極北まで来たのだわ社会というのは妄想を共有する巨大な規模のカルトなのだから・・・・・・


TVの画面に仕組まれたサブリミナル・メッセージ
そんなものは既に一般市民にもよく知られている
水道に向精神系の強力な薬物が混入されているとか
食品工場から配送されてくるパッケージの中や
トレーに乗せられているものについても同様に

ナツメグのなかに含まれている
大麻の有効成分によく似た化学的組成のアルカロイド・・・
いま言っているのは そんなレベルの低い話ではない

そして意識の表面で思考してもけっして行きつけない

減衰していくだけの再生産のため与えられた眠りの奥で
集団自殺のスクリプトを秘めた小動物たちが見る貧しい夢の集合
でも そこにある微かな自由のなかさえも予定調和が支配している

精神分析家たちも そこから先へは行けなかった意識の更に深層
地球母性の胎血にまみれたエリアで原住民が陥る依存症
だから すべてはもう恢復不能だ


・・・・・・眠剤ねえそれなら簡単に手に入るよ簡単にねカウンセラーに言うんだよ前の薬は全然効きませんもう何日も一睡もできない状態ですとても苦しいです先生何とかなりませんかそうするとあいつは苦笑いしながら薬剤師に渡す書類を書いてくれるっすたぶんあたしの言うことなんかこれっぽっちも信用してないだろーけど薬が売れるのにこしたことはないんだからさー業界全体馴れ合って助けあってるのよとにかくクスリを手に入れてそれから夜を待ってクラブへ行くわ壁に凭-もた-れながらあたしはハルシオンちゃんをすぐ飲みこまないで口の中で齧るのうん苦いよとっても薬特有の苦味がねでも慣れるとそれが何とも言えない感じになるんよ子供のころはお酒ってとても苦くてどうして大人たちはあんなもの飲むんだろうって思うけどやがてその味がわかるようになって見ただけで涎たらたら垂らすようになっちゃうでしょあんなもんよそれでまあ適当に味わったら飲みこんでしばらくすると少しは眠くなるけどそんなとき眠ってしまうのは勿体ない眠らないで持ち堪えるんよあたしのバヤイまあたいした眠気じゃないからそれほどの努力を要するわけじゃないけどとにかく眠気をこらえていると直に世界が綺麗な虹のモアレで蓋-おお-われるわそいでもってそーゆー時はユーロビートを聴くとすごくノリノリになるの普段は能天気でお馬鹿な音楽としか思ってないんだけどさあでもどうして精神科に通ってる人たちってみんな眠れない眠れないって言うんだろう・・・・・・

きみの家庭から もう親たちは姿を消していて
家電製品と一緒に並んでいた自動飼育装置は
小綺麗という名の不潔さを払拭できていなかったが
社会の底部にある澱みが沁み込んではいないから
それらはそのプライドにかけて幼児虐待などしない

教師たちは自分のサディスティックな性癖を
飴玉のようにしゃぶりながら満足の笑みを浮かべ
きみにマインド・コントロールを施そうとしてきた
授業中は時に生理的IQの低さを露呈する冗談を交えて

放課後のきみと二人だけの面談は
傾いて射し込む陽光を受けて
きみの下腹部に手を伸ばしながらだったろう
それは互いに同性であった場合でも
けっして例外ではなかったはずだ

体表が脂膜に覆われた人間たちが
記憶のスクリーンに次々現れる
屈辱感を拭い去るため きみはそれを破壊する必要がある

・・・・・・だってこの星は温暖過ぎるものそりゃあエスキモーとか砂漠で暮らしてる人たちとかはそれなりに厳しい条件下にいるんだろうけどでもここでは金属が融解してしまうほどの灼熱はないし空気が液化してしまうほど低温でもないだからそんな生ぬるい状況でこの世界を強烈に憎悪することは不可能だわでもそれじゃあ憎悪によって彗星を衝突させたり地軸を反転させたりするだけのエネルギーを生み出すことはできないわねとてつもなく強い思念をもたなければそれだけの力は現れてこないのよだからこの星の上でもてる思念の強さが引き起こせるいちおうの破滅で実現する可能性があるものといったら核戦争くらいだわ・・・・・・

きみが生まれて以来ずっと
原石から磨き上げてきたプライドを護ること
けっきょく 戦うことのできないものは
奴隷になるしかないのだろう

世界はあくまでもきみを拒絶しつづける
そしてきみは戦い 破壊しつづける

きみが戦うのは権力を得るためではない
それはリベンジのためでもない
何かのヴィジョンを実現することによって
やがて来る新しい世界のためでもなく
自分を正当化するためでさえない

ただ破壊のためにきみは戦いつづける
ただ破壊のためにきみは破壊しつづける

やつらの眉間に躊躇することなく
正確に弾丸を打ち込むのは やつらが
苦痛を味わうことなく逝けるようにという慈悲ではなく
ただ単にゲームで高得点をあげるため そして
そのとき血管を駆け巡るアドレナリンのため

きみは絶対に敗北することはない 投降をしない限りは
だって きみが死を選択することも勝利には違いないのだ
それは絶対 かれらに実行不能のプロセスだから

アイ・ラブ・ゼロ・・・
アイ・ラブ・ゼロ・・・
アイ・ラブ・ゼロ・・・

呪文のように きみは呟く

この世界にはゼロとマイナスしか存在しない
そう あらゆるプラスはすべて幻覚だ

だから正誤の判別は簡単だ
ゼロだけが真実 でも
真実は世界のこちら側には存在していない

きみは世界にあるすべての要素をひとつひとつ抹消して
そして そのたび無垢に近づいていく
やがて意識と身体とが互いを疎外する状態は解消され
そして・・・





うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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