金属犬







この空には雲があった。己の落下しようとす
る重力と、空の包み込もうとする水平的な力
との均衡を支えきれず赤黒く浮腫み、光とい
う光はその感覚の鈍磨した矩形の空間の排泄
の臭気に疾患の赤外線のみを供し、熱に狂っ
たマゾヒスティックな内部の汚濁した恥部は
慟哭の一滴をポツリとも漏らすことができな
い。

風は西の方から渦巻き、捻れ、時に黒緑色のに
きびの詰まった灰褐色にたるむぶよぶよした肉
にぶら下がる欲求不満の脂ぎる妄想狂の瞳孔を
東西につり上げ罪業という名辞を濫発しては無
風の空間を強姦しようと黄色に腐乱した母音を
べっとりと時間に塗りつけている。

旅を知らぬその粒子一つ一つは、卑猥な涎を垂
らし聖職者が肉食と女陰と犯罪に淫するが如く
の道徳的な転倒を更に転がるように暗黒の闇の
中、己自身に虐げられた魂の自律が出口を失い
苦悶しその果てに自己満足の自責とそれに飽き
たらぬ転嫁、つまり自分勝手な分裂を永遠に繰
り返している。

地には茨ばかりの小さな庭。その隅っこに嘔吐
に腐った土が錆びたギロチンを乗せている。何
のためのギロチンだろうか。その周囲では火刑
によってのたうち廻る子供達が悲鳴を上げてい
る。それを歪に嘲うのは錆のない唯一の部分、
つまりエゴという黴の多い光の屈折だ。挫折し
変質した神経のエクスタシーだ。そこに無数の
蠅が集る。生理の女の嫉妬と復讐が動物的な湿
気を帯びている。

羊という羊を駆逐し、犬の淫靡な舌と歯ばかり
をオブジェにした神の牧場。人知を越えんとす
る無知の驕慢。血の濁流に狂った何万という牧
師の黒い血で錆び付いた刃を今にも巨根の太陽
を分娩しそうな性的な西の空に向け、そのギロ
チンは陰嚢の重さに歪む。

罪業という名辞に性的倒錯をおこし、絶対的無
欲な殺戮を繰り返す歴史に幽玄と佇んでいる。
この哀れなる使徒は性衝動の赴くままに、罪状
を読み上げてはその雷を振り下ろし続けるのだ
そして、この世界のどこかにある首都は今まさ
に紫に発狂する。

私には海が無い。
私の文明には海図とい甘い言葉もない。








うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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