土の器

金属犬







無数の個が無数である故に
夜の海は
くらげを繁殖する
都会の煤煙の一隅に独り俯く私の思念は
氾濫する無数のくらげの頭の一つ
救い難き血の楕円 船底に虐げられた
静脈の中の性器たちは歪に舞踊する
斧で打たれた月光の下に
沈みゆく土の器を抱えながら
遠近法のない素描で生は描かれている
無数のくらげの中の私の頭は
遠心力に被れた薄い鼓膜を
幾度も巻き付けながら
日向のような奈落に堕ちてゆく
土と血の臭いのする海に無数のくらげは
月光を浴びて無数に連なる
喀血と嘔吐に黒ずむ緊縛した心臓の糸
手術糸で継ぎ合わされた闇に壊れていく手足
幾何学的に調和した座標軸で
赤い悲鳴を上げる
岩と卵の記憶が波の波紋に揺らめき
来たるべき粘土質の情念にのたうち廻る
海とは大きな土の器
火と泥で祀られる
無数の哀しい器を孕む
器の中の腐乱し発酵した肉 しかし
私の頭は赤い肉の襞に石のままでいる
幾重にも重なる岩礁の環の中で
くらげは魚影を凝視する
骨のない魚の群 虚ろな目で
そこには過ぎ去るものだけがある
しおれた花だけがある
真夏の太陽すら忘却した目
暗い海藻の汚濁だけが
くらげの喜劇である
私の頭ははやがて
土の器の環の中から抜け
岸に向かい
闇の渚の黒い土に横たわる
雨が降り始めれば
いずれ
闇だけが残る







うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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