生成

金属犬






空という観念を失った120階建てのビルの
群と水脈を失った肉体の濁流を突き抜ける鉄
条網に巣を作るカラス プラスティックの扉
俺は微睡みの中を単眼で歩く ガードレール
には土蜘蛛が這い 大地は根という根を裏切
っている ただ 蝮の血だけが永遠に矩形の
電子回路を接着したり切断したり分割したり
し続けている もはや形のないものに用はな
い 2500年間俯瞰し続けた雲の砦は蝋人
形の人工知能に堕落した 今や酸素ボンベを
咥えながら一戸建て住宅の中のゴキブリの栖
に黄色い黴を被って呼吸している 俺には嘲
笑するだけの日々しかない 初夏の陽射しも
抗鬱剤のカプセルみたいに番号が振ってある
痙攣するパラボナアンテナ 嘔吐する光ファ
イバー 俺たちの生は痙攣も嘔吐もしない 
物質が肉体に変化する ブラウン管の向こう
で何度も死ねたりするのだ 俺は曲玉の中に
飛び降りる 手探りで土の臭いを嗅ぐ 硬い
石を削り取って概念を創造してみる 血の密
教とやらに手足を奇形させてみる 虐げられ
た土民の粥を啜り天体を子宮の中に埋葬する
火と泥で氷の海を叩き割る しかしその全て
の行為は鶏の首だ 俺の血は大地に迸るが俺
の血は交接にはならない コンクリートに生
き埋めにされた俺の骨を百羽のカラスどもが
海を見ながら笑っている そのカラスどもは
やがて何百個もの卵を産む










うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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