有性生殖

金属犬







深夜の建築現場 鉄と鉄が軋み合い 泣き喚
く幼児が居る 氷の地平をガラス板が垂直に
突き抜ける クレーン車が持ち上げようとし
ているものは何か? 真夏の多湿な私の肉欲
だ 暗黒の豊穣 赤黒い空に月食 氷の地平
に幼児が屈んでいる 置き捨てられた建築現
場の鉄筋は外気に僅かに歪んでいる 目を見
開こうとして赤い涙を流す 血の叫喚 誰が
彼を名付けるというのか しかし 彼はやは
り在るのだ 名もなく在るのだ 私の陰嚢が
一番高い所 おそらく水が湧き出る所にぶら
下がっている 私から去った女のように建築
現場を囲む建物は冷たく目を逸らしている 
氷の地平の幼児は 氷の椅子に坐り 人の形
をした黒い旗を持つ 魚の群れる壁が現れ 
氷の中で世界を限定している もしかしたら
彼にも私にも その限定というものが必要な
のかも知れない 土には雑草が生えている 
私の下半身のように 目に脂を浮かべ馬に跨
っている 馬の陰茎はゼリー状に韜晦してい
る 草は夜露を輝かせ 世界の膜を破ろうと
する 輝きは調和を乱す 太陽のように欲深
く 彼と私を支配しようというのだ 幼児は
氷を弄ぶ 遠い空を黒い雲が駆け抜ける 人
の形をした黒い旗を氷の地表に横たえ 雨を
待っている 雨 彼の現在にも私の過去にも
スコールのような雨が必要なのかも知れない
しかし それはカタルシスという雨ではない
むしろ 濡れるという現象を通して 世界に
対し陰鬱に見開いていく目を持つための雨だ
今雨が降り始める 彼と私の足は 鬱積しな
がら大地を貫いていく 









うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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