秋へ、落ちて ―些細な償いについて―
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秋へ、落ちて ―些細な償いについて―



冨澤守治

リンゴやカキやブドウなど
夏から秋へ、多くの果実が実るころ
思い出すことが
あとからあとから、多くあって
どこまでもどこまでも、昔は遠くて

このごろは、つくづく思う
何事も知ってしまったと、白けてしまってはいけないのだということを
それは実ったつもりで、衰弱した老いなのだということを

群れをつくり、屯して
つまりは壁に寄り添い、街行く人を嘲る若者たちが、老いているように
組織に凭れ、自余の人々を区別し、差別する親父やお局たちが
組織とは別の階級と序列をつくるように、老いている

この季節は実るか、堕ちるか?
恋したあなたよ
あのころは互いに求め合うことが多くて
あなたも人生の森のなかに消えてしまい
いつか姿が見えなくなって

(バカなことをした)

遠く、若葉のころの初々しさも
善と悪の、そして肉欲の時代も
すべてをこの果実たちのなかに閉じ込める
夏の始末はそれでよいのか?

そうだよ、取り返しはつかない
あなたはそこまで大人になれたか?
見つめて、揺れる、秋の風を諒して、それでよいのか?

憾み続けた昔、昇る朝日の日々は、もう落日し
世界は果実に収束してしまうのだ

見上げる頭上で廻る旋風!
二人に実るのはただに熟した緑の葉‐年を経た‐
古い葉音があなたの声のように聞こえる

これは
木々のなか、ただ鳥が舞い立つばかりかもしれない

舞い立つことで、
鳥は少しだけ自由になるだろう

しかし、それで果実は鳥たちの命の糧を
どこまで満たしてくれると、云うのだろう


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