待っている
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待っている



須永紀子

ラジオからZA音が流れている
テーブル上のパン屑。カップ。茶色の澱。
午後二時の陽ざし。
あのひとは出かけてしまった

チューニングを合わせて
まともな音を聴きたかった
できれば音楽、バッハとかヴェルディ。
そして考える
わたしがここにいる事実が
二人の関係を説明することにはならない
ということについて
わたしは3つの番号を合わせてキーをあけたのだ
あのひとは誰にでもナンバーを教えてしまう
今知らない人が入ってきても
NOという理由はないが
帰ってもらう方法が一つくらいはあるだろう
気を悪くさせることなく
二度と来ないようにする手立てがあるかもしれない
と考えて
「手立て」というのは賢いことばだ、と思う
手が加わるとコトは複雑になる
  手筈。手加減。手心。
どんどん賢さから遠ざかっていく
  手練れ。手管。手合い。

ZA音が切れ目なく流れるなか
つながることばをさがしながら
壁面にしかけられたカメラのように
目は室内を移動する
わたしは壁のようなもの、壁でしかない
新しい認識が突然やってきて
奇妙な明るさに満たされ
わたしは動くことができない

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