南川優子 詩のページ

生まれたころ

季節は四つあった
決められていたから。
妻も一個ずつ ついていた
さいふの鈴のように 夫に。
一ドル札には 三百六十円の値札
ぶらさがり はずれなかった。

ある放課後
駐車場でなわとびしていたわたしの目に
すっぱい雨つぶが着地した
地面と草木は 新味に舌鼓
空からのアシッドをがぶ飲みすると
胃がうけつけずに吐き出され
町をつらぬく川に合流。
さわぎに浮かれた四季は
たがをはずして赤道直下に交わり
妻たちはお尻の結び目をといた矢先に
水流へぽとぽとと身投げして
ドル札は水びたしで希釈 その日々の濃度を
朝のニュースが伝えていた。

みんな それぞれの しまりのない 下流へ 羽を伸ばした。

みんなの 呼び名が 太陽光線に じゅっと焼かれて
色だけが ふわふわと 型くずれ。

もう手ぶらだね わたしも
一生
たぶん
生まれた町のふところは 糸で縫いつぶしてきたから。
信じてよいのかわからない クラゲの笠を
重ね着して
藻のつぶやきに返答し
ときおり ひまつぶしに
貝のすきまをのぞきみしたり。