南川優子 詩のページ

タンス

わたしの母はタンスだ
引き出しが積み重なって
下着が内に敷いてある
生まれる前
わたしは男と女の間を
するりと行き来できた

女の引き出しにもぐると
ブラジャーの繭に隠れて眠り
パンティーの上で跳ねるたびに
水玉が泡立った
母が暖かい日は
キャミソールのすそに
スイトピーの種を蒔き

男の引き出しへ上ると
そこはミニマリズムの世界
パンツの中に突進して
割れ目から頭を出し
靴下をかぶるときは
サッカーボールを蹴るまねをし
母が居眠りしている間
引き出しごと外に出て
家じゅうを運転した

けれどわたしは育ってしまった
引き出しに入りきれないわたしを
母はある日 吐き出した
わたしは人間の女だった
もう一度母のなかに 戻りたいのに
母は男の引き出しに
きつく鍵を掛けた

母は女の引き出しだけ
開けさせてくれるけど
下着で遊んじゃだめと諭した
「下着は着るものです」
けれどパンティーも ブラジャーも
わたしにはまだ 大きすぎる