南川優子 詩のページ

テーブルクロス

あなたを思いながら
庭を眺めるダイニングルームで
洗いたての 白いテーブルクロスを
たたむ
職場のあなたは 今ごろ
ディスプレイの中の設計図を見つめ
点と点を
つなぎあわせている
わたしの仕事も
あなたと同じぐらい
精密だ
四つ折にした布の
ふちをそろえ
倍数に折りたたんでいく

庭の 白いバラが
首ごと落ちている
花びらはやがて腐り
土に溶けるのだろう
わたしは布の折り目を
手のひらで押さえる
正確な四角
満ち足りて 手を離すと
布は抗い
見る見るテーブルをおおう

粉石けんの香りが
テーブルの木の香りに
巻かれ
四角い折り目が 碁盤の目のように
連なっていく
布を 指でたどると
庭で死んだはずの バラの首が
みっつ よっつと
四角の中から浮かぶ
萼から 花びらが絶え間なく
押し出され
互いを 窒息させると
茶色くなって
再び死を迎える

あなたが帰宅するころ
布の折り目は 消えていて
おとなしくテーブルを
包んでいる
その上に わたしは
輪切りのフランスパン
チーズの皿を置いて
グラスに赤ワインを注ぐ
あなたの手は
パンをちぎって
パンくずを落とし
赤ワインをこぼして
テーブルクロスにしみをつくる

Dorothea Tanning Some Roses and Their Phantoms を見ながら