南川優子 詩のページ

検査

りんごがこの町に転がっていると
新鮮すぎて
爆弾ではないかと警戒される
大安吉日の秋の日
結婚式で無垢なケーキが
入刀の瞬間 爆発してから

店に品物が並ぶ前に
長い検査を経る
ピーナッツがはぜないか
いちごの赤は化学薬品ではないか
リカちゃん人形が暴れださないか
カーディガンに施されたバラの刺繍は
導火線ではないかと 疑われ

店で購入するころには
食品はぐったりし
衣料は手垢にまみれ
そんなものを食べて 身につける毎日
人々の目が 生き物を見ると輝き

ふさふさのマルチーズが通りがかると
子供たちが先を争ってなで
道端でタンポポの花が開くと
大人たちが指で愛撫し
美しい男女を見ると
臆面もなく抱きつき
キスするようになって

どうやらこの町でいちばん新鮮なのは
人間ではないかと
検査官が疑い

明日からは 人体が爆発しないか
定期的に検査される
長い行列をつくって
自分が危険物でないことを 確認してから
町を堂々と歩くのだ