光
昨日
ミシンをかけている間
太陽の寿命が尽きた
縫い目は
途切れた線路のように
行き先を失い
窓が 意識から消えた
手探りで 壁にもたれかかり
スイッチを入れると
電球が 白内障の目のように
光った
闇を
目覚ましのベルが破り
顔を洗って ドアを開けると
筒型の封筒が
郵便受けに押しこまれていた
開けると 蛍光灯が入っている
一家に一本
配給されたらしい
説明書きに
「光が熟したら 収穫してください」
とあった
朝食後 家じゅうの明かりを点け
庭に出て
蛍光灯を植える
太陽の光が ないので
水と 肥料だけを
ふんだんに与えて
電気の光を通して
人を見つめ
会話する日々が続いた
木や草は
しだいにしなびていったが
地面に刺さった蛍光灯は
少しずつ
明るい色を帯びている
隣人とは
蛍光灯の育ちぐあいを
語りあった
今日も
庭の蛍光灯の色が
濃くなる
自分が育てた光で
ズボンのすそをかがってみたく
庭に裁縫箱を持ち出し
地べたに腰を下ろし
縫った
それから
泥が服にしみていくのも
忘れて
イワシを皿に積み
光の下で
手開きにした
光はもう 熟しているが
次の配給が いつなのかわからず
抜くのが こわい
時々 風が吹き
蛍光灯が左右に揺れる
ぐらつく光の前に ひざまずき
枯れませんようにと
祈る
家じゅうの電球が
弱っていくのを
肌で感じながら
Dan Flavin The Diagonal of May 25, 1963 を見ながら