南川優子 詩のページ

街路から空への一投

吐息をふくまない鏡
音の冷めたページ
壺の逃げた静物画
であるところの

街路に散らかる手のひとつが
マッチ箱を空の頂へ投げ入れる
箱がピタリと静止すると
そこから哀しみがわいて
できたての部屋が蒸し上がった
空の新鮮な中身
たちどころに時計が掛けられ
とば口にスリッパが出そろい
指紋が発色しはじめる
キャベツを切る音が響くと
エレベーターがぐいぐいと接近して
ぬかるんだ人頭が昇ってくる
人頭の目がドアから漏れると
スリッパが恐れをなして
窓からごっそりと身投げした
石畳に転がり
もだえるスリッパ
職を解かれた看護婦が
介抱する
手厚く手厚く
介抱する