花散里

王殺し



お前は俺の前で髪を切り
消え入りそうな笑みを浮かべた
散らばった髪を俺は
動けずただ見つめた

髪は風で運ばれていく
黙ってふたりで見送った
俺は思った
”俺もお前も泣けばいいのに”

音も無く降っていた
それは春の光だった
俺はお前に触れたかった
でもやはり動けなかった

俺はお前を
何者にも陵させない
そんな男のはずだった
そう誓ったはずだった

深く抉られた
白きうなじが悲しかった
舞い散った
黒き髪が悲しかった

お前は微かに首を振り
天を仰ぐよう促した
音も無く降っていた
それは春の光だった


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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