闇の魚

けんじゅう




海ですよ
あれは海の喫水線なのです
それが壊れて
あなたの内部に流れ落ちているのです
闇ですよ
海は音もなく
あなたの器を越えて
とめどなく闇に落ちていくのです

あなたは昨日
胸のつかえを覚えたでしょう
眼が飛び出てきたでしょう
口が裂けてきたでしょう
エラが張ってきたでしょう
いつか
あなたは壊れていく海を
支えきれず
溺れていくはずです

たとえば もう
東京23区は海の中なのです
胸のつかえはそのためです
誰も路上など歩いてはいないのです
たくさんの魚たちと一緒に
みんな泳いでいるのです

でも まだいい方です
海は壊れているので
どこまでも
海は闇を埋め尽くすでしょう
そして 闇そのものが海となるでしょう
誰も闇を支えきれないので
全ての人が
闇の魚になるのです

鏡をごらんなさい
眼が飛び出してきたのは
水圧のためです
口が裂けてきたのは
捕食のためです
エラが張ってきたのは
エラ呼吸のためです

街をごらんなさい
真っ暗闇の交差点を
魚たちが渡っていきます
どっぷりと溺れながら
あの人たちは
毎夜 少しずつ手足を削り
闇の魚になっていくのです




うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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