しわ

神風 KX


【 しわ 】

おじいちゃんが
一日のほとんどを
まるで
怒ってるみたいに
こわい顔をして過ごしているのは
世の中のほとんどが間違っているからだ

ぼくは思った

だから
おじいちゃんが笑ったとき
それは正しいの意味で
きっと
正しい

正しいのだ

思うのだ
けれど

ぼくは
あんまり正しい子供ではないのだから
おじいちゃんは
いつも
こわい顔

ん?
怒ってるの

みんなで
夕ご飯を食べ終わったあととか
お湯みたいなお酒を飲んだあととかにも
おじいちゃんは
TVを見ながら
かたい
おせんべいの缶を
マクラにして

このときも
やっぱり
なんか
怒ってて

みんなが
しずかにしていると
そのうち
ぐぅぐぅ
ぐぐぐぐぅぅ・・・

こうなると
もうこわくない



//////

ある日
ぼくがその真似をして
おじいちゃんのマクラと
ぼくのマクラを
とっかえて
寝て

そうしたら
えらく
寝違えて
いててててて・・・

ぅぉぉ
いててててて・・・

いたい
いたいよって
つぎの朝
その缶を持って
二階からおりていったら
首を
こうやって
さすっていた
ぼくに

わしゃしゃしゃしゃしゃしゃ、わしゃしゃしゃしゃ

はじめて
おじいちゃんは
ぼくに
すっごく
正しいの顔を
してくれたんだ

はっきりと
くっきり
正しいの顔
だった





うれしかった



//////

それから
おじいちゃんが死んでしまって
ちょうど三年がたって
親せきの人たちが
ぼくのお家に集まってきて





その中には
あの
おせんべいの缶をおじいちゃんにあげたという人もいて
おもしろかった



ぼくは

新しい
ろうそくを買いに行ったり
げんかんのクツを整えたりして
いっしょうけんめいに
大人の人たちの
お手伝いをした









ねえ



でも
おぶつだんの中の
おじいちゃんは
あのときみたいに
正しいの顔にはならなくて
むっすと
だまったままで

それは写真だから
ずっと同じ

当たり前だけれど

教えて

なんてきいてみても
答えは
やっぱり
返って来ない



ぼくが正しかったのは
けっきょく
あのとき一度きりだったのか
と思う



少しつかれた


//////



寝る前になって
その日は
一日中そのことを考えていたのだけれど
それでも
ぼくがした
正しいことなんか
ほかには
まったく思いうかばなくて



おじいちゃんがいない間にも
一つも
増えてなんかなくて
これからも
たぶん
増えなくて

ぼくは
ほんとうにダメな子だ


思うと
なんか
悲しくなった



でも






あのとき
はじめて見た
おじいちゃんの笑った顔には
くっきりと
はっきり



たくさんの
正しいを
見たあとがあったので
ぼくは
まだ
やわらかいマクラで
安心している






ばいばい




//////






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