家路

かのっぴ


帰りの電車の眠気のなかで
かすかに鉄橋をわたる音と
それよりももっとかすかに
ありがとうの音を聞いた

深まった眠りは
みたこともない川原を
夢にみせた
草の匂いの中
あたたかな陽につつまれて
ありがとうが
次々に現われては消え
代わる代わる
僕に手をふっていた

目を覚ました僕は
夜の車窓の奥にある景色を眺めていた
少しおかしな夢だったな
などと思い返しながら

やがていつもの駅に着き
朝のような足取りで
電車をおりて家に向かった
冷たい空気が心地よかった


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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