帰りたい

あかしあ





時折遠いところから母さんを揺らしにくるのでした
15年会っていないともだち
懐かしくて
少し恥ずかしかった
揺らされてもわたし 動くことができなかった
けれど
静かに揺らしてくれるから
母さんも穏やかで
そのまま
会えずに
日々は過ぎていった

ところが春が過ぎた頃に
もうひとりのおともだちが強く揺さぶりにきたの
毎週 揺さぶりにくるから
とうとうぼんやりしてしまった

長い間ぼんやりすることも忘れていた
母さん少女になってしまった
それで
ぼんやりしているうちに
苦しくなって苦しくなって
おともだちは身体がなかったから
二人で会ったんだよ
一度だけ その懐かしいおともだちと駅で
会ってたくさんお話してキスされて別れた
お母さんどきどきしたよ
それきり会えなかったけれど
お母さんは苦しいのがまだまだ続いて
おともだちの心はわからなかった
さっぱりおともだちの心がわからなくてね
だからね
忘れることにしたんだよ

そうしたらもうひとりの
男の人が揺さぶりにきた
その男の人は
懐かしい友だちと
仲が悪くて とても心が痛んだの
仲良くしてほしかった な
ほんとうだったんだ
でも懐かしいおともだちは嫌だったんだね
なかよくするのは嫌だよって
黙っていたけど言ったんだね

お母さんをいつも揺らしにきてたんだけど
ほんとうじゃなかったんだ
よくわかったんだ
そのときに
お母さんはバカだね
ああ 大騒ぎになっている
ごめんなさい
ごめんなさい
男のひと許してください

お母さんね
揺さぶられるのは とても疲れるから
もうやめてほしくなったんだよ
このままだと死んでしまうのじゃないかと思ったの
だから悪いな かわいそうだな
悲しいなって思ったけれど
銀のハサミで3本 切ってしまうことに決めたの
ごめんなさい ごめんなさい 懐かしいお友達ごめんなさい
男の人ごめんなさい
でもほんとうはみんなお母さんのことなんて好きではなかったでしょう
でも母さんはくたくたで時々死んでしまいたい と思うの

だから ごめんなさい じょっきり切らせてくださいね
そっとしといてくださいね
こどもたちが待っている
お父さんが待っている
ごめんなさいね
恋をしてしまったこと ごめんなさいね
もうとっくにこどもたちのところへ
帰っていたのに





うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
UrokocityShimirin's HomePageSiteMap