モノローグの道

高岡 力



『モノローグの道』



妻の見舞いの帰り 
ひと駅なので歩こうか 
途中 蕎麦でも喰って済まそう 
と 川沿いの道をいった
この辺は相変わらず葦原だな と呟いてみたが 
はじめての道だ
このまま いけば 家の裏手につく
と おもっていると 道が川沿いを離れ 折れ曲がった
暫くすればまた沿いだすだろうとおもっていると
遠のいていく気がする 
角を曲がると また角が来て
曲ると即座に角が待ち構えている 
当然 子は 愚図りだし
隣町とは云え見当がつかない 
道を聞こうにも すれ違う人もいず 
年の暮れ 陽はそう長くは続かない 
こまった と 呟いてみるが 
パパ・・・と 見上げる子の手前 こまってばかりは いられない 
そうだ ひきかえそう 闇雲に突き進むのは悪い癖だ 
これで 何度も好機を不意にしているではないか 
と 踵を返し 角を曲がり 角を曲がり 
曲がりするが いっこうに見覚えのある道に差しかからない 
気のせいか 道そのものが どうも 先細りしていくようで 
なんだか罠にはまった 獣の気持ちで呻きたくなった 
さーぁ こまったぞ と 実際呻いてみたが 
パパ・・・と 見上げる子の 心細さを おもうと
呻いてばかりはいられない 
さぁ どうしようね 君・・と 笑いかけたが
もう傾き始めた陽に照らされて子の顔は真っ黒だ 
人型の闇の中から 小さな堅いモノが白くわっと零れだし 
(こいつ なくな)(こいつ なくな)
と おもっていると こちらもなきたくなってきた 
嫌な感じが むくむくと 胸ぐらで 蠢きだして
ぐっと子の手を握り 蠢きが納まるのを待っていると 
恐れていたものが 終に吹き出して もう とまらない 
なくな! なくな! と云えば云う程
火に油を注ぎ 
骨よ 砕けよ 
とばかりに 泣きじゃくる子を ついつい 握ってしまう 
(こいつ ないたな)(こいつ ないたな) 
と 嫌な感じが また 胸ぐらで蠢きだして 
頭とは云わずそこらじゅうを叩いてやりたくなった
事件は新聞のなかの事 だけではないとおもうと ふーと 我にかえった
かえると さーと 冷や水を浴びせかけられたように 
ぶるっつ と 寒気がした
どこもかしこも もう 闇だ 
こらせばこらすほど 見えなくなっている
ごめん・・パパは・・・迷っ・・・ちゃっ・た
と 今さらながらに云い 
ひきつけを起こしている子のぐっしょりと濡れた頭を撫でた 
(これは縮図だ) 
と 泣き止まない子に 云ったって 埓は明かない
(おれはいつもこうなんだ) 
と 泣き止まない子に 云ったって 埓は明かない
泣き止まない子は 泣き止まず 泣き止まないまま 
どっこいしょっ と おんぶ した 
そのうち疲れて 泣き止まないまま 眠ってしまうだろう 
さぁ どうしたものか 
すっかり闇に隠れた道には 点々と電燈が灯り出した 
見れば見る程 先細り して いる 道
なの だが 
さぁ 歩かねばならない
 



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