村瀬いくの


いつも通る公園の
風 吹きぬける中央あたりに
一本の楡の木が立っている

立派な幹の中途から まるで
両の掌を合わせ
天に向かって開いたように
八方にバランスよく
枝が張り巡らされていて
その姿がいつの季節も
絵のようにうつくしい

公園の脇の道を
ずっと歩いて行く間じゅう
楡を見つめる すると
ひとの喧騒に疲れて
狂いかけている心が
調律されて落ち着いていく わたしは考える

出来ることなら
樹のように生きたい と

五月は

あの楡の黒い幹に刻まれた歴史の
(わたしの知らない長い時間の)
傷の重さを裏切るように

いま生まれたばかりの
透き通るみどりの葉が
やわやわと
風に揺れながら 恐れもせず

空(そら)に 触れている


 


うろこシティアンソロジー 作品篇 No.1 目次前のページ次のページ
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