有働薫
きょうはジャンヌダルクの涙を持参しました
同席の女性が言ったので
いよいよ日本にもジャンヌダルク教会が創られたのか
仏舎利やキリストの衣のように聖遺物は
ジャンヌダルクの場合は涙であるのかと想像した
ジャンヌのからだのものはすべて燃えてしまって
心臓の一部だけ燃え残って川に捨てられたとも言われる
そういうことはもはやすべて伝説にすぎなく
涙は
赤く
大粒で
ジャンヌは裏切られてのち 涙を流したことはなかったとわたしは思っていた
涙の段階はもうとうに過ぎている
身を捧げるという美しい言葉のなんという恐ろしさ
ジャンヌ終焉の地ではるか後の世に
極東の老婦人が旅の土産に買った
ココアパウダーをまぶしたナッツ菓子は
真っ赤に
大粒
舌の上で
ゆっくり崩れていった
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