冬の姉たちへ
高田昭子
冬子ねえさんは クリスマスの夜に
「わたしの恋人をたのむわ」と言って死んだ
夏子ねえさんは やっぱり寒い朝に
「あなたの恋人を奪えなかった」と言って死んだ
寒がりのわたしには
ほんとうにつらい冬が続いた
冬子ねえさんの恋人を頂くつもりはないし
夏子ねえさんが好きだったひとなら
いつでもあげたのに
今のわたしはあたらしい恋をしているから
もう重い過去なんていらないのに
気まぐれなねえさんたちは
フワフワとわたしの肩に降りてきて
「あのひとは元気?」とたずねるの
あのひとたちはとびっきり元気よ
この世には生きてる女がごまんといるし
いつでも己の愛は崇高だと思っているもの
わたしの愛?
崇高だとは言い難いけれど
愛しているのに寂しさばかり
恋人はとびっきり貧乏で
セクシーなハゲ
「フェックション!」
ねえさんたち またわたしの悪口言っているわね
冬の病院の待合室は
赤ん坊の泣き声
老人の切れのわるい咳の音
ねえさんたちの来るところじゃないわ
わたしの恋の病いもここでは直らない
取りあえず
やさしい眠り薬と風邪薬
病院を出れば木枯らし
しばらく恋人に逢っていないから
わたしは寂しさにこごえそうよ
ねえさんたちはもう
クスクス笑いながら雲の布団の中でしょう?
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