ねずみ猫

ねずみ猫





俺を呼ぶSさんの声
それにTさんの声が続く
なのに俺は押し黙って
橋の下に隠れていた
二人の声は川に沿うて遠のき
やがて秋の風に消えて行く

二人の声に土手を駆け上がり
たとえば頭にベレー帽
片手にステッキ姿で
やあと挨拶していれば
詩人らしくて
誰も俺が猫などとは気がつかなかったろうに

そして
あれは詩ですなといわれて
いやあーなどと
頭に手をやって
内心のヒゲを押し隠そうと
顔の筋肉を必死でひっぱっていただろう

でもいつか機会があれば
人間になって
SさんとTさんとを
行きつけのコーヒーショップ*に誘って
(*いつもはソーセージの残りを貰いに行っているのだけど)
新しく作った詩をテーブルの上に差し出して
どうでしょうかと
二人の顔を覗いてみたい

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